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佐賀地方裁判所武雄支部 平成12年(ヨ)2号 判決 2000年3月23日

佐賀県西松浦郡有田町<以下省略>

債権者

株式会社勝木陶仙堂

右代表者代表取締役

右代理人弁護士

東島浩幸

河西龍太郎

同町<以下省略>

債務者

有田焼直売協同組合

右代表者代表理事

右代理人弁護士

蜂谷尚久

松田安正

主文

債権者が債務者に対し債務者の組合員たる地位を有することを仮に定める。

理由

第一申立ての趣旨

主文と同旨

第二事案の概要

一 本件は、債権者が債務者の除名(以下「本件除名」という。)が無効であると主張して、債務者の組合員の地位を有することを仮に定めることを求めている事案である。

二 前提事実

1 債権者は、昭和28年に有限会社勝木商会として設立され、昭和52年に株式会社に組織変更された会社であり、陶磁器販売を業とする。債務者は、昭和38年に中小企業等協同組合法に基づき、組合員の取扱品の仕入・保管・運搬・販売・斡旋・交換会その他組合員の事業に関する共同施設などを目的とし、佐賀県内に店舗を有する陶磁器販売業を行う小規模事業者を組合員として設立された事業協同組合である。債権者は、昭和38年、債務者に加入した。(争いがない。)

2 債務者は、債務者が絵柄を独自にデザインしてこれを窯元の制作している陶磁器の絵柄として制作を発注し、窯元から納入を受けて各組合員に販売する商品(以下「組合オリジナル商品」という。)を組合員が再販売する価格について、上代価格(小売定価)を設定し、上代価格の50パーセント未満での販売を禁止する規則(以下「本件価格制限」という。)を作った。(争いがない。)

債務者は、平成8年5月8日付けの「総合見本帳の送付と取扱についてのお願い」と題する文書を作成して組合員に送付したが、その中で組合オリジナル商品については、上代価格の50パーセント以上で販売してください、組合オリジナル商品については卸行為による販売はできませんなどと記載した。

3 債務者は、有限会社三和堂が総合見本帳の組合員以外への譲渡と卸行為をしたことから、同社に対する組合オリジナル商品の出荷を停止し、平成9年1月23日付け文書で、組合員に対してその旨を周知した。(出荷停止について争いがない。)

4 債権者は、平成9年8月15日、石川県和倉温泉の加賀屋別館茶寮の宿あえの風に対し、組合オリジナル商品である錦三色銀彩反蓋物、梅づくし蓋付珍味を上代価格の50パーセントを下回る価格で売却する契約を締結した。(争いがない。)

5 債務者は、平成9年8月30日、債権者に対し、右2点の組合オリジナル商品の出荷を停止する決定をした。(争いがない。)

6 債権者は、右2点の組合オリジナル商品の絵柄だけが債務者のオリジナルであることから、型が同じで絵柄の異なる商品の製作を窯元に依頼した。債務者が窯元に対してあえの風に対する商品を債権者に出荷しないように求めたため、窯元は、債権者の注文を断った。(絵柄だけがオリジナルであることは争いがない。)

7 債権者は、債務者に対し、債権者が6の商品の製作を依頼した窯元に債務者が圧力をかけたとして抗議する平成10年1月25日付け文書を郵送し、本件価格制限が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)に違反することを指摘した「組合へのお願い」と題する同年3月2日付け文書を郵送し、債務者の同法違反を指摘してその是正を求める「有田焼直売協同組合の価格制限行為による独占禁止法違反について」と題する同年9月8日付け文書を郵送した。(1月25日の文書送付は争いがない。)

8 債権者は、平成10年11月16日、公正取引委員会に対し、債務者の独禁法違反を申告した。

9 公正取引委員会は、平成11年7、8月ころ、債務者に対し、「見本帳取扱い注意事項」に基づき、組合オリジナル商品を上代価格の50パーセント以上で販売することを組合員に義務づけている行為が独禁法19条(一般指定12項1号)、組合オリジナル商品の卸行為による販売を禁止することが同条(一般指定13項)にそれぞれ違反するおそれがあると指摘し、「見本帳取扱い注意事項」を破棄し、今後独禁法の趣旨を理解し、同様の行為を行わない旨を決議した旨の措置報告を求めた。

これに対し、債務者の顧問弁護士は、公正取引委員会に対し、右いずれの行為も独禁法に違反しないとの意見書を提出した。

10 債務者は、平成11年12月2日、債務者内部で討議検討すべきであるのに何らの手続を踏まずに、債務者の事業が独禁法に違反することを指摘して公正取引委員会に是正措置を求めたことが、債務者の事業を妨げようとした行為(定款13条3号)に該当することを理由に、債権者を除名する旨総会決議をもって決定した(本件除名)。

三 争点

1 独禁法違反

(債権者の主張)

債務者の定款13条3号において、債務者の事業を妨げようとする者を除名にすると定めるのは、債務者の適法な事業を保護するためである。しかし、本件価格制限及びその違反に対する措置としての出荷停止は、独禁法に違反する違法な事業であるから、その是正を求めて公正取引委員会に申告することは、定款13条3号の行為に該当しない。

(債務者の主張)

(一) 独禁法の適用除外等に関する法律(以下「適用除外法」という。)による適用除外

本件価格制限は、事業者団体の行為であるから、これについては、事業者による不公正な取引方法を禁止する独禁法19条は適用されず、同法8条1項が適用される。そして、債務者は、独禁法24条所定の要件を備え、かつ中小企業等協同組合法に基づいて設立された協同組合であるから、適用除外法2条1号ハにより独禁法の適用を受けない。したがって、本件価格制限は、独禁法に違反しない。

(二) 独禁法24条による適用除外

(1) 仮に事業者団体としての協同組合についても事業者と同様に独禁法24条の適用を受けるとしても、債務者は、独禁法24条各号の要件を備え、かつ法律の規定に基づいて設立された組合であるから、本件価格制限を含む債務者の行為は、同条により同法の適用を受けない。

独禁法24条ただし書きの不公正な取引方法である一般指定12項の再販売価格の拘束は、商品販売業者がこれを購入した業者に対してその販売価格を拘束することを意味し、協同組合が組合員の総意をもってオリジナルな商品を開発し、事業者として組合員外の一般業者にも販売するというのではなく組合員のみに販売し、販売価格を協同組合の正規の議決機関の決定によって制限することを含まない。したがって、本件価格制限は、独禁法24条ただし書きの不公正な取引方法に当たらないから、独禁法により禁止されるものではない。

(2) 仮に本件価格制限が形式的に再販売価格の拘束に当たるとしても、以下の点からみると、これにつき一般指定12項の正当な理由があるというべきであり、本件価格制限は、実質的に競争を制限するものではなく、独禁法24条ただし書きの不公正な取引方法に当たらない。

① 組合オリジナル商品の取扱高は、九州地区のさらに限定された肥前地区における陶磁器生産高に比べてほとんど無視できる程度に小さい。

② 組合オリジナル商品は、絵柄のみが債務者のオリジナルであって型は窯元の型をそのままに利用している。したがって、絵柄の異なる同型商品は、窯元によって多量に生産され、多量に流通している。

③ 組合オリジナル商品の販売先は、ホテル、旅館等の事業者がほとんどである。

④ 債務者の組合員の大部分は家族だけで事業を行っている零細事業者であり、その市場占有率も取るに足らないものである。しかも、本件価格制限は、組合オリジナル商品だけに限定されており、他の共同仕入商品には及んでいない。

⑤ 組合オリジナル商品の共同仕入事業は、弱小零細事業者の集まりである債務者が、大中規模の販売業者に対抗するために始めたものである。

⑥ 本件価格制限は、債務者の組合員の大半が零細業者であるためオリジナルの商品を開発できないこと、各組合員が自己の倉庫を持つことができないため債務者において共同の倉庫を提供する必要があること、組合オリジナル商品について各組合員の自由競争にまかせると零細な組合員が資力のある組合員に駆逐されて倒産の危機に瀕するおそれのあること、自由競争による乱売は商品の品質低下をもたらし一般消費者にとっても不利益となることなどの理由から、各組合員の要望により零細組合員互助のために組合オリジナル商品について価格を調整しなければならなかったものである。

(三) 独禁法24条の2による適用除外

(債権者の反論)

(一) 適用除外法について

適用除外法2条は、独禁法8条2項を念頭に置いて立案されたものであるから、同項所定の事業者団体の届出に関する規定の適用を除外したにとどまる。したがって、適用除外法2条所定の要件を備えた協同組合の行為であっても、独禁法の適用を全面的に除外されるものではない。

仮に、適用除外法2条により独禁法8条2項の以外の規定の適用が除外されるとしても、協同組合の事業者団体としての行為についても、同法24条ただし書きと同様の制限がある。なぜなら、独禁法24条は、協同組合が団結して大企業と実質的対等な競争単位となることができる趣旨で独禁法の適用除外を認め、その理論的根拠から導かれる限界を同条ただし書きで規定しているところ、その趣旨は、事業者団体としての行為にも当然妥当するからである。協同組合のある行為について、構成員の共同行為としては独禁法が適用されるのに、事業者団体の行為としては独禁法が適用されないというのでは妥当性を欠くことになる。

独禁法8条は、同法3条、19条の補助的規定であり、同法8条の規定が全面的に適用を除外されるとする論拠はない。

(二) 独禁法24条ただし書きの適用について

(1) 協同組合と組合員の関係であっても、独禁法24条ただし書きの適用がある。組合員は、組合オリジナル商品について、債務者を通じてでしか購入できず、本件価格制限は、その独占的地位を利用した再販売価格の拘束であり、同条ただし書きの「不公正な取引方法を用いる場合」に当たる。

(2) 独禁法24条ただし書きの不公正な取引方法については、実質的競争制限を要件としていないし、一般指定12項も、実質的競争制限を要件とするものではない。したがって、本件価格制限は、同条ただし書きの「不公正な取引方法を用いる場合」に当たる。

2 公正取引委員会への告発の経緯

(債権者の主張)

債権者において、債務者内部で討議検討すべきであるのに何らの手続を踏まずに、債務者の事業が独禁法に違反することを指摘して公正取引委員会に是正措置を求めたことを本件除名の理由に挙げている。しかし、債権者は、債務者に対し、2度にわたり本件価格制限は独禁法違反であるから是正すべきであるとの通知を出したのであり、債務者がそれに対して真摯な応答をしなかったことから、公正取引委員会に申告するしか方法がなかったのである。したがって、債権者は、何らの手続を踏まないまま、いきなり公正取引委員会に申し立てたわけではない。

(債務者)

債権者が債務者に対して債権者主張の通知を出したことは争う。

3 信義則違反

(債務者の主張)

債権者代表者は、昭和60年8月から昭和62年8月までと平成元年から平成7年7月まで債務者の理事として、平成7年8月から平成9年8月まで債務者の仕入委員長として、長年にわたり組合オリジナル商品について上代価格の遵守を主張し、三和堂に対する出荷停止を強硬に主張した。したがって、債権者代表者が役員の地位を退くやいなや本件価格制限の違法性を主張することは、組合員としての信義に反する。そのようなことから、組合員の圧倒的多数をもって除名が決議されたものである。

(債権者の主張)

債権者及び債権者代表者は、本件価格制限の遵守を率先して主張したことはない。平成8年5月8日付け総合見本帳の送付と取扱についてのお願いと題する文書は、債権者代表者に無断で出されたものである。かえって、債権者代表者は、平成8年7月の仕入委員会で本件価格制限を存続するか否かについて意見交換をした際に、完全撤廃を主張し(出席委員11名のうち完全撤廃4名、条件付撤廃6名、続行1名)、その結果を理事会に報告した。債権者代表者は、三和堂の処分の際に、総合見本帳を他の業者に譲渡するのは許されないが、卸行為は自由であるとの意見を表明した。

4 保全の必要性

(債権者の主張)

平成10年12月から1年間でみると、組合オリジナル商品による債権者の売上高は、総売上高の約14パーセントに及び、組合オリジナル商品を扱う債権者の取引先は、債権者の取引先総数の35パーセントを占めており、組合オリジナル商品を今後取り扱えなくなることは、債権者の経営に危機を発生させる。債権者は、営業用の食器をセットで飲食店等に販売しているところ、販売先の飲食店からのその後の組合オリジナル商品と同じ食器セットの補充に応じられなくなる。それによって、取引先を失う危険性がはなはだ大きい。

(債務者の主張)

債権者は、債務者の中でも最大手の業者であり、債権者の組合オリジナル商品の仕入額は債権者の総仕入額の多くとも5.8パーセント程度にすぎない。債権者は、類似商品を製造させてこれを仕入れることが容易であり、現に組合オリジナル商品の模造品を製造させて販売したことがある。

第三裁判所の判断

一 独禁法違反

1 債務者は、債権者の公正取引委員会への申告が定款13条3号に該当するとして、本件除名を決定した。しかし、債権者が同号所定の除名事由に該当するというためには、債権者が債務者の適法な事業を妨げ又は妨げようとしたことが必要である。本件価格制限が独禁法に違反する場合には、適法な事業であるとはいえず、債務者がそれを妨げ又は妨げようとする行為は、定款13条3号に該当しない。

そして、公正取引委員会が債務者に対して本件価格制限が独禁法19条に違反するおそれがあると指摘したのであるから、本件価格制限は、独禁法に違反すると一応みざるをえない。

2 債務者の本件価格制限が独禁法8条の事業者団体の行為であるとすると、本件価格制限は、組合員の間の価格競争に制限的効果を及ぼすものであり、同条1項4号の行為に当たるとみられる。しかし、適用除外法2条は、同条所定の要件をみたす事業者団体について独禁法8条の適用を除外しているところ、その文言からいえば同条が事業者団体の届出義務(同条2項)に関する適用除外を定めただけであるとみることは到底無理であり、適用除外法2条1号ハ所定の要件をみたすとみられる債務者の事業者団体としての行為については、独禁法の規定の適用が全面的に除外されるというべきである。

しかし、本件価格制限は、債務者自身が組合オリジナル商品を仕入れて組合員に販売するという経済的取引に関するものであるから、事業者団体としてではなく事業者としての行為とみることもできないわけではない。そうすると、債務者の本件価格制限について独禁法19条が適用されるとみることができる。そして、本件価格制限は、一般指定12項の再販売価格の拘束に該当するとみられ、独禁法19条(2条9項4号)に違反するというべきである。

なお、本件価格制限は、債務者が組合員の総意をもって組合オリジナル商品を開発して組合員のみに販売し、販売価格を債務者の正規の議決機関の決定によって制限したものであるとしても、このような行為も組合員の自由な取引、自主的な事業活動を阻害するおそれがあり、一般指定12項の再販売価格の拘束に該当するとみられる。また、一般指定12項の再販売価格の拘束は、実質的な競争制限を要件とするものではないし、本件価格制限が債務者ないしその組合員にとってその事業の経営上必要かつ合理的であるとしても、それをもって同項所定の「正当の理由」があるということはできないから、債務者が第2の三1(二)(2)の①から⑥で主張する点が事実であるとしても、本件価格制限が一般指定12項の再販売の拘束に該当することを否定することはできない。

右のとおり、本件価格制限は、一般指定12項の再販売の拘束に該当し、不公正な取引方法に該当する。したがって、債務者は、独禁法24条所定の要件を備え、かつ中小企業等協同組合法の規定に基づいて設立されたものであるが、同条ただし書きにより、本件価格制限については、独禁法の適用を除外されない。

3 債務者は、独禁法24条の2の適用除外事由に該当することも指摘するが、同条1項、6項所定の要件をみたしたことを一応認めるに足りる疎明がないから、右適用除外事由には当たらない。

4 以上によれば、本件価格制限は、独禁法19条に違反する行為であり、これを妨害したからといって、それが定款13条3号所定の除名事由に当たるということはできない。したがって、本件除名は、無効である。

なお、債権者代表者の平成9年6月当時の理事長に対する行為、債権者ないし債権者代表者の平成8年及び平成10年の模造品の製作依頼は、本件除名の理由として挙げられているものではないから、これをもって本件除名が有効であるということはできない。また、組合員総数122名のうちの出席者110名のうち106名の賛成をもって債権者の除名が決議されているが、それは中小企業等協同組合法53条所定の除名の手続的な要件をみたし、組合員の圧倒的多数が債務者からの債権者の排除を望んでいるというにすぎず、それをもって定款13条3号の事由に該当しない本件除名が有効となるものではない。

二 公正取引委員会への申告の経緯

債務者は、定款13条3号に該当しないのに、それに該当するとして債権者を除名したのであるから、本件除名は、債権者が公正取引委員会に申告する前に債務者に本件価格制限の独禁法違反を指摘したか否かを判断するまでもなく、無効であるということができる。

三 信義則

総合見本帳の第3者への譲渡禁止及び組合オリジナル商品の卸行為による販売禁止に違反した三和堂に対し、厳しい処分を債権者が要求したことが一応認められる。しかし、それをもっても債権者が過去に本件価格制限を積極的に推進したことを一応認めることはできず、債権者が理事ないし仕入委員長としての職務を越えて本件価格制限を積極的に推進したことを一応認めるに足りる疎明は他にない。したがって、信義則違反の主張は、前提を欠くものである。

四 保全の必要性

債権者が債務者の組合員の地位を有することを仮に定めたとしても、債権者において本件申立ての目的とする組合オリジナル商品の購入が直ちにできるかどうかは、別問題として残るところである。

その点はさておくとして、仮に組合オリジナル商品の仕入額の債権者の総仕入額に占める割合が債務者の主張のとおりであるとしても、債権者が組合オリジナル商品の補充注文に対応できないため、組合オリジナル商品を納入していた取引先との取引継続ができなくなるおそれのあること、現にそのような事態も発生していること、それによって被るであろう債権者の損害は小さくないことが一応認められる。したがって、保全の必要性も一応認められる。

五 よって、債権者の申立ては理由があるから、主文のとおり決定する。

(裁判官 栂村明剛)

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